2013北斗旗全日本空道体力別選手権大会
2013.5.19 宮城県 仙台市青葉体育館
2013年5月19日、今年も、大道塾発祥の地・仙台において北斗旗全日本空道体力別選手権大会が開催された。
ここ10年、常に優勝者・ファイナリストを生み出してきた吉祥寺道場。
だが、今年は様々な意味で特別な大会となった。
まずは、史上最多の11名がエントリーしたこと。関東予選を勝ち抜いた一般部に加え、シニア選抜でも7名が出場したのである。
次に、6年前の初優勝以来キックボクシングのプロ選手として第一線で闘ってきた末廣智明が、久々に空道に復帰。
勢力図が大きく変わった軽量級で、二度目の戴冠を目指す。
最後に、なんと言っても飯村健一支部長が自ら参戦したことだ。
平成元年に初優勝した仙台で、自身5度目となる中量級制覇をかけて、試合場に立つ。
プロのトップキックボクサー、大野信一朗さん、大月晴明さん、中野智則さん、石毛慎也さんにも応援に駆けつけていただく中、大会が始まった。
【一回戦】
先陣を切って登場したのは、-250クラスの優勝候補の一角、ジェイソン・アンゴーブ。
初戦は硬さが目立つものの、強烈なローキックで危なげなく判定勝ち。
続いて-260クラス、加藤和徳。
まだ緑帯ながら、他流での経験と恵まれた体格を活かして、昨年の無差別で3位入賞を果たしたホープだ。
こちらも動きは硬く、やや警戒し過ぎた感もあるものの、ローと膝蹴りで圧倒、二回戦へ。
続いて、末廣が登場。
直前の練習中に腹斜筋を痛め、決して本調子ではないものの、落ち着いて相手を追い詰め、前蹴りからパンチを的確に決め、「効果」3を奪う圧勝。
そして、いよいよ飯村支部長の初戦。
会場中が注目する中、試合開始。
カウンターを警戒し、試合場を大きく回る相手に、なかなかクリーンヒットが奪えないものの、プレッシャーをかけて左ミドルを当て、組んで投げ捨てるなど主導権を握る。
攻めて来ない相手に、飯村支部長の手数も減ってきた後半、衝撃的な結末が突然訪れた。
フェイントで距離を詰めると、右のテンカオ一撃!
相手が崩れ落ちた瞬間、誰もがKOだと分かる倒し方で、復帰初戦を飾った。
【二回戦】
上記の4人以外にも、吉祥寺で預かりとなっている宮地孟(八王子)も、ディフェンディングチャンピオンとして迎えた軽量級一回戦を無難に突破している。
しかし、二回戦でその宮地が谷井(早稲田)に飛び込みざまのストレートで「効果」を奪われ敗退。
加藤もローキック主体で押し気味の試合を三角絞めで逆転一本負け。
寝技の対応に課題を残した。
続いてジェイソンが登場。
攻撃が単発になり、ペースをつかめずに思わぬ苦戦を強いられ、本戦は引き分けに。
またか? と嫌な雰囲気になりかけたが、延長では相手が消耗したところを寝技で捉え、絞め技で一本勝ちを納めて、加藤とは逆に引き出しが増えていることを示した。
末廣の二回戦は、かつて大道塾の寝技の先駆者として長く中量級のトップ戦線を引っ張っていた長谷川(北九州)。
やはり打撃に付き合わず、組む作戦で崩しに来る。
しかし、末廣のフェイントを交えた前蹴りが効果的に長谷川を突き放し、接近しては膝蹴りで削る展開に。
右ストレートで「効果」も奪い、ほぼ一方的に判定勝ち。
そして最後は飯村支部長。
相手はベテラン、榎並(西尾)。こちらも長く中量級・軽量級でトップ選手として活躍してきた難敵だ。
やはり飯村支部長の打撃には相当の警戒を見せ、なかなか詰め切れない展開に。
しかし、長い距離で捉えられないなら、と組み際での肘打ちをクリーンヒット。
立て続けに「効果」2を奪い、準決勝へと駒を進めた。
【準決勝】
一番手はジェイソン。
昨年はこの準決勝で名王者アレクセイ・コノネンコと好勝負を演じ、惜敗している。今年は、と気合が入るところだ。
相手は魚津(八王子)。
関東地区大会では圧勝しているだけに、決勝進出は堅いと思われたが、この日の魚津は初戦から好調。
得意のワンツーを武器に勝ち上がってきたサウスポーに、ジェイソンもペースが掴めない。
前戦での疲労もあるのか、動きに精彩を欠くジェイソンを、終盤で魚津の左ストレートが捉え「効果」が与えられる。
これを挽回できず、ジェイソンは2年連続で悔しいベスト4止まりとなった。
末廣の準決勝は、なんと46歳、飯村支部長を上回る年齢ながら、柔道のキャリアを活かして勝ち上がってきた草薙(秋田)。
またも打撃と組技のせめぎ合いかと思われたが、草薙も積極的に左ミドルを蹴ってくる。
対する末廣は前蹴り、膝蹴りを効果的に使い、崩して草薙を投げ捨てるなど、互いにバランスよく攻撃を組み立てていた。
しかし、フェイントからローキック、ストレートなどもヒットさせ、技術レベルの違いを見せた末廣が判定勝ち。
師より一歩先に決勝進出を決めた。
そして飯村支部長が登場。
相手はベテラン、巻(筑紫野)。
柔道で培ったフィジカルを武器に、順当に勝ち上がってきた。
前半は、やはり静かな立ち上がり。
蹴りを外して飛び込みたい巻だが、カウンターを警戒して間合いに入れない。
しかし、首相撲から寝技に行った飯村支部長に(巻が柔道出身だと知らなかったのだとか…)、巻は下からの三角絞めであわやの場面を作ると、スタンドに戻った直後にもテイクダウンしてマウントポジションへ。
極め4本を入れて「効果」を奪うことに成功。
ビハインドとなった飯村支部長。
焦りからか、やや大振りも見られる。
セコンド、応援団も必死で声を張り上げて逆転を祈るが、試合は終盤戦へ。
「まさか…」
嫌なムードが漂う中、それでも飯村支部長は冷静さを取り戻していた。
ノーモーションの右ストレート一閃!
巻の頭を跳ね上げると、フォローのテンカオを脇腹にグサリ。
テイクダウンで逃れようとした巻だが、ダメージは大きく、立ち上がることができない。
「技有り」を奪い返した飯村支部長が、逆転で決勝へと駒を進めた。
【決勝】
2004年にも-230で末廣、-240で飯村支部長と揃って決勝進出したことがある。
このときは、飯村支部長は優勝したが、試合中に肩を脱臼した末廣は惜しくも敗退。
師弟での二階級制覇は夢に終わっていた。
そして、今日。
試合開始前、吉祥寺勢全員で円陣を組む。
飯村支部長「みんなのサポートのおかげで、ここまで来れました。絶対に勝ちます。末廣、今日は勝ってバトンを渡してくれよ! 行くぞ!」
会場中に響き渡った、全員の気合いの声に送られて、まずは末廣が試合場へ。
末廣の相手は20歳の新鋭、目黒(長岡)。少年部から持ち上がってきた、言わば空道純粋培養の選手。
そのルール適応力と、細身ながら強いフィジカルを武器に、関東予選では末廣を逆転で降して初優勝している。
二度負けられない末廣、前回の反省を活かして、目黒が足を使って距離を外しても、焦れて前に突っ込まず、冷静にフェイントから攻撃を散らし、まずはコツコツ当てていく。
予選では綺麗に投げられて効果を奪われたが、この日は組んでも、逆に崩して投げ飛ばし、序盤でペース争いで優位に立った。
延長に入ると、目黒も前に出てくるが、前蹴り、ミドルと蹴り分けて間合いを制すると、フックをジャストミート、「効果」を先取。
しかし、目黒も即座に打ち返しに来る。
回転蹴りを空振りさせられても、すぐに下から伸びてくる蹴りを狙うなど、ルール適応力だけではなく、気持ちの強さもトップレベルと言っていい。
しかし、末廣は最後までペースを渡さない。
終盤、またも強烈なストレートをヒットさせ、「効果」を追加して試合終了。
終わってみれば実力差を見せつけた完勝で、6年振りのV2を達成し、師にバトンを渡した。
続く飯村支部長、相手は堀越(日進)。
中量級だけでなく、無差別級も制した空道の代表選手と言っていい。
ワイドスタンスの堀越に対し、あえてサウスポーに構えて左ローを強烈に決める飯村支部長。
堀越は躱してパンチを当てたいところだが、スタンスが広い上、ノーモーションで蹴られて反応できない。
しかし、相手はカウンターのフックで260超の選手からもポイントを奪える堀越。
油断はできない緊張感の中、本戦終了。
延長も同じ展開に。飯村支部長はフェイントからロー、膝とつなぎ、返しのフックもスウェイし、ペースを掌握する。
堀越も脚のダメージを押して前に出てパンチを振るうものの、最後までクリーンヒットを許さず、強烈な左ローを蹴り続けたが、両者ともに明確なポイントはなく試合終了。
判定となり、副主審は引き分け、残り3人は飯村支部長を支持したが、引き分けも充分あり得るケース。
再延長か? とも思われたが、主審は飯村支部長を支持!
4-0の判定で、ついに師弟での二階級制覇を達成した。
表彰式の後、吉祥寺初の胴上げで宙を舞った二人。
飯村支部長は、トーナメントからの引退を示唆。
末廣は、来年に迫っている世界大会、そして師弟の、吉祥寺のもう一つの宿願である、キックでの王座獲得を目指して、新たなスタートを切ることとなった。